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山内 進/一橋大学副学長に聞く「EUのエキスパートを社会へ」

――今、EUについての教育を必要とする理由を、広く理解してもらうためには、どのような説明をしたらよいでしょうか?

 一橋では、EUについての教育を大事だと考えており、この事業はその文脈の中に置かれています。数年前から日本におけるEUについての教育研究ということで活動を始めていました。

 EUはいろいろな意味で重要ですが、分かりやすく言うとGDPが、今やアメリカを抜くほどの大きな経済単位になっています。政治的にも、アメリカの一極支配といわれる状況の中で、アメリカに対抗する政治的発言ができるという要素を持っています。

 さらに、文化力、規範形成力というか、欧州スタンダードといえるようなものを示しつつあります。アメリカとは違うスタイルで世界にいろいろなものを発信し、人権を軸にしながら議論をしていくとか、環境問題を重視するなどがあります。また消費者の利益ということで競争法(独占禁止法)の分野にも力を入れており、最近もマイクロソフトが多額の制裁金の支払いを命じられています。

 むろん、競争法の問題にしても、EUに力がなければもちろん独自の政策を追求できないわけですが、それだけの力があります。しかも、そこに一つの理念がある。EUなりの考え方があって、その考え方がある意味では先駆的で、時代の最先端を行っています。

 そのような理念というのは一つの力であって、それが経済面でも政治面でも、いろいろな所で大きな意味を持っています。それを日本は無視できない、あるいは世界は無視できないという状況にあり、私たちはそのことを知っておく必要があります。

――では、日本がEUを学ばないことのリスクは、どんなことがありますか?

山内 進

 学ばないことのリスクというのは、アメリカしか知らないことのリスクということになるかもしれません。例えば基軸通貨はドルですけれども、その一方で、やはり今のところ、ドルに対抗できる通貨としてはユーロしかありません。ですから、ユーロについて学ぶことは大切です。

 日本は今後、世界の中でバランス良く生きていこうとするなら、ヨーロッパのそういう力を知らないでいる、あるいは無視すると、利害の面で大きく損をするということが出てくるわけですね。

 企業がヨーロッパで活動するときに、EUのことを知らないで活動しますと、制裁金を取られたり、うまく参入できなかったりということが当然起こってきます。環境問題でも何でも、知らないうちに規範が決まっていて、日本が非常に損をすることがあり得ます。

 もう一つ、アジアにおいて、東アジア共同体を作ったらどうかという話が出た場合に、EUは非常に参考になります。今、EUは27カ国で構成されていますが、27の国が一つの共同体を作るわけで、しかもその中を大部分は基本的に自由に移動でき、パスポートはいらない。これは大変なことですから、東アジアで何かやっていこうとするときには大いに参考になるはずです。

 

――日本は両方をバランス良く学ぶということでしょうか?

 それでいいと思います。当分、アメリカのスタンダードが支配するのは変わらないでしょうが、アメリカ一辺倒でうまくいくという保証は何もありません。むしろ、そうでない方向に今、大きく動いているのではないでしょうか。

 そのような状況にあって、アジアにおける共同体をどのように作っていったらよいかを考えているわけです。そして、世界の中にはEUという独特の共同体的な存在がある。これは実は大変面白いことですし、それはわれわれが将来取るべき道を暗示していると思います。そういうことが大事ですね。

――アメリカという呪縛から放たれる、という希望のような?

 それは当然あると思います。もう一つ、第一次世界大戦と第二次世界大戦というのが、ヨーロッパから始まっているわけです。しかも、不倶戴天の敵としてすごい戦争をしてきたフランスとドイツが協力して、まったく新しい共同体を作っていこうとしています。もう60年近く、戦争も何もしていない状態が続いているわけですから、やはり大変なことだと思います。平和というものを具体的に作っていくことを考える上でも、非常に参考になるだろうと思います。

――例えば大学院の研究テーマですが、どのようなイメージをお持ちですか?

 大学院の研究テーマというのは無限ですが、具体的に言うなら、通貨統合や金融の問題、またEU内外の政治の問題がありますね。先ほど触れた競争法の問題も大切です。

 また、ヨーロッパを拡大していることの意味と問題も考える必要があります。さらに、EU発の世界基準はあり得るか、という視点も大事ですね。とくに環境や人権はこのことと深く関係します。大学などに関する教育政策も見落とすことができません。

 要するに、EUはいろいろな形で発展してきているわけです。これを追いかけていき、きちんと分析した上で、参考にするなら参考にする、批判するなら批判するで、対応していく必要があるわけです。ですからたとえば経済学や法学の一環としてのEUではなくて、EUを中心にして学び、EUの中の経済、EUの中の法、EUの中の政治というような形で、EUに焦点を当てる形で研究をして、EUについての専門家になっていく。

 最終的には法、経済、政治、文化など、どこかが自分の中心になりますが、あくまでもEUに焦点、中心に置きながら考えていくというスタイルを取ることが重要です。

――共同大学院の卒業生は、どのようなキャリアになるのでしょう?

 (例えば)修士課程の学生に関して言えば、行く先はいろいろあると思います。企業でも、国際・国家・地方公務員でも、もちろん研究者でもいいし、ジャーナリストになる人もいるでしょう。

 特徴があるとするなら、経済学なら経済学、政治学なら政治学、あるいは法学なら法学をきちんと勉強していると同時に、EUのことについて学ぶわけです。会社に入ってもEU、ヨーロッパと付き合う部門で働くことが期待されますが、常にというわけにはいかないでしょう。どの分野でもそうですが、修士ぐらいですと、必ずしもみな、その専門でずっと生きていくわけではないですからね。

 ただ、そういうものをきちんと学んでおくと、例えばアメリカに行って働くにしても、「EUではこうだった」という基準があれば随分違うでしょう。それは、中国でもいいですよね。EUとアメリカという2つのモノサシを持つことで、バランスよく中国と付き合っていくことができるのではないでしょうか。

取材:赤池円(グラム・デザイン)

 
 

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